みどりのネットワークちば 齋藤 晃

 

シラスウナギ漁凍てつく様な北西風に川面は波だっていました。時刻は満潮を迎えた日の出前、舳先を照らす明るいライトが揺れています。

何をしているんだろう。そう思いました。そうこうする内に辺りは明るくなって、灯りの足元には紺色に塗られた小型漁船が姿をあらわしました。二人が乗り組み、一人が舳先で網を引き上げている様子です。

夕方、干潮の時刻にやはり同じ色に塗られた漁船を見掛けました。 今度は網を川面に下ろしている様子です。日によって数隻、多い時には五十隻近い、同じ色、同じ船形の漁船が、銚子大橋から上流のかごめ大橋までの間を、等間隔に並んで操業しています。

御近所さんに聞いた話です。それはシラスウナギ漁をしている漁船で、生きたシラスウナギを捕獲して、人工飼育するのだそうです。俗に養殖ウナギと呼ばれる、その種となる稚魚です。

そこで漁師に話を聞いてみました。

最近解明されつつあるとの事ですが、ウナギは南太平洋のマリアナ海溝付近で産卵するらしいのです。そこでふ化した幼生が黒潮にのって、徐々に成長しながら秋、日本の太平洋側の河川をシラスとなって遡上するのだと言います。シラスウナギ漁の漁期は12月から4月末まで。その間、シラスが続々と利根川を遡上するのでしょう。続々と、と書きましたが、実は一昨年辺りからシラスウナギ漁は極端な程の不漁になっています。最盛期の昭和三十年代に比べて十分の一程に落ち込んでいます。

シラスが成魚に育つまで7、8年かかるといい、その間、利根川の流域で棲息するのでしょう。丁度、シラスウナギが遡上するのと入れ替わる様に、秋口の11月頃、利根川を下って産卵のため成魚は南太平洋への旅にでます。成魚、つまり下りの天然ウナギとして重宝されるのは、この時季に捕獲された成魚という訳です。

不漁の原因については、諸説あるようです。諸説あるようだけれど、聞いた印象では乱獲を否定できないように感じます。川の源流から南太平洋までのウナギの旅で、シラスであれ成魚であれ、早い者勝ちの漁が繰り広げられている現実があるそうです。

茨城、千葉県は、資源保護のため厳しい許可漁業を施行していると聞きます。シラスウナギ漁もその規制のもとで行われて、シラスからの人工養殖も概ね実用化しています。けれど、鮭のように卵をふ化させる技術は未だ。

人工養殖による歩留まりも、自然の河川での生き残り率と比較してどちらが、という科学的な証明は未だ無い様子です。けれど、ウナギの産卵の道中にある沿岸国が、統一の資源保護に務めない限り、利根川のシラスウナギ漁を見掛ける事もない時代が来るかもしれません。

既に、利根川のシジミ漁は絶えて久しく、ただ地元の人々の思い出話の中だけの光景になってしまいました。